うちの大学院へ進学を考えているみなさんへ
進学説明会等でよく聞かれた質問とその返答をまとめておきました。まあ僕は実際学生さんに来てもらうのは今回がはじめてなので何とも言えませんが、一応以下の通りです。他に質問がある人はメールしてください。
- 所属はどこですか。
- 東大本郷の素粒子論研究室です。柏の IPMU にも週一回ぐらい僕は出掛けていますが、学生さんは主に本郷で過ごしてもらうことになります。
- 専門は何ですか。
- 超弦理論および超対称ゲージ理論です。といっても非常に広いわけですので、どんな研究があるかおおざっぱに書いてみましたのでこちらをみてください。僕自身が最近やっている話は2011年夏にやった講義録がありますので、それを読んでみてください。二頁目からは日本語なので怖がらないで下さい。意欲的な四年生、修士一年生なら読めるように書いたつもりです。以前の研究内容の思い出話や、セミナーでのスライド等もあります。素粒子論を自分の専門にするかに関しては、田崎さんが以前とてもまっとうなことを書いていらしたので、それを読むのもお勧めします。
- 素粒子理論の中で特に〜〜〜をやりたいのですが。
- 〜〜〜にはこれまでループ量子重力、場の量子論の数学的厳密化、超弦理論の物性への応用、等いろいろありました。やりたいことが既にはっきりしているのはいいことだと思います。そういう場合は、その〜〜〜を日本で/世界で一番専門にしている研究者のいる大学院に進むことをお勧めします。自分が既にいる大学の大学院にあがるとか、日本人だから日本の大学がいいとか、そういうことは忘れてください。誰が一番専門かはなかなかわかりづらいでしょうが、質問してくれれば紹介します。また、90年代半ば以降の論文やレビューはすべて arxiv というところで無料で読めますので、そういうところで調べてみてください。
- 素粒子論はやりたいのですが、その中で特に何をやりたいかまだわかりません。修士に入る際の指導教官の選択は後に変えられるのでしょうか。
- 書類上の指導教官と、実質上の指導教官が違うことはしばしばあります。実質上の指導教官はポスドクだったり助教だったりすることもしばしばです。また、最近流動化してますから、そもそも指導教官が今後五年間ずっと一カ所の研究室/研究所にいるとは限りません。あなたが研究したいことが決まり、意欲と能力があれば、大学院の仕組みは十分融通が利くはずですので、そういう手続き的なことは気にしないことです。勿論、一応大人の社会ですから、あまりに無茶なことばかり言うわけにもいきませんが。
- では、書類上の指導教官の選択は気にしないでいいのでしょうか。
- これまでの実例を見ますと、大抵の場合は、素粒子理論の中でも、指導教官のこれまでやっていたテーマに近いことを院生の間は研究して、ポスドクになってもはじめの数年はそれをする、ということが多いです。ですから、やはり、素粒子理論、弦理論の中でもどんなことがやりたいか、誰が何をやっているか調べて、自分が好きなことに近い研究室に行くのがいいと思います。僕自身の学生はまだいないので僕のところの研究室に実際にきた場合どうなるかは何ともいえませんが。
- 大学院に入るとどんな生活になりますか。
- はじめの一年はとりあえず単位を取らないと行けないのでいくつか講義に出てもらいます。また、学生の皆さんで輪講をして場の理論、弦理論の基礎を学んでもらいます。「教えてもらう」というのを脱却して、「自分で勝手に勉強する」となって、さらに「自分で考えたいことを考える」すなわち「研究する」ということに移っていきます。弦理論のコミュニティは世界に広がっていて、最新の研究結果は平日毎朝ここに投稿されるので、それを確認するのも日課です。
- 学費はどうでしょう。
- 東大のページを参考にしてください。学術振興会の特別研究員、もしくは学内の ALPS に(運と実力に恵まれて)選ばれれば、お給金を貰うことになります。
- 大学院に入る迄に何をどこまで勉強しておけばいいでしょうか。
- 別に大学院に入ってくれたからといって積極的にこちらから何かを教えるわけではなく、学生のあなたが積極的に勉強、研究するわけです。ですから、特に何をどこまで勉強しておかないと困るということは無いですし、何をどこまで勉強しておいたから困らないということもないです。
- 場の理論、弦理論では数学がいろいろ必要だと聞きますが、何をどれくらい勉強しておけばいいですか。
- 場の理論、弦理論で必要になる数学はいろいろありますが、具体的に何をするかに非常に依存します。また、ある分野 X を使うからといって、その分野 X を数学で専攻する人用の教科書を買って真面目に読んでも強調すべき部分が違ってきたりします。ですから、場の理論、弦理論の勉強を主にして、必要になった時点で必要な数学はその場で何でも勉強するようにしたほうが良いと思います。
- 弦理論の研究は紙と鉛筆なのでしょうか。パソコンは苦手なのですが。
- 紙と鉛筆で出来るところもありますが、パソコンで数式処理が出来るようになると研究範囲が広がります。僕はこういう途中結果をつかって計算することがありました。また、超弦理論でもスパコンを使って大規模なシミュレーションをする研究になることもあります。一方で紙と鉛筆でしか出来ないこともあります。どれが必要かは、弦理論の中でもどういう研究をするかに依ります。ですから、必要になった時点で、必要な計算手法は手であれパソコンであれその場で何でも勉強するようにしたほうが良いとおもいます。論文を書くのは TeX というのを使ってパソコンで書いてもらわないといけません。
- 大学院入試では〜〜〜でしょうか。
- 日本の大学院の仕組み上、院試に通ってもらわないといけないのは仕方ありませんが、通ってしまえば忘れてしまって思い出すこともないことです。あまり気にしないようにしてください。
- 大学院を出て研究者をはじめるとどんな生活になりますか。
- 普通はしばらくポスドクといって三年もしくは二年の期限付き研究員を何回かやります。僕は五年やりました。ポスドクの間は、期限付きのかわりに、何も義務がなく、研究を好きなだけしていればよいことが多いです。ポスドクは日本国内だったり、アメリカだったり、インドだったり、世界各国を渡り歩きます。そうして、助教職等に応募することになります。
- 大学院を出て研究者にならないとどんな仕事につくでしょう。
- 身の回りでは金融、IT 系が多いです。科学系出版社、アニメ業界、コメディアン等もあります。