博士論文の提出前に(物理の内容以外で)チェックしてほしいこと。
これまで博士論文の審査委員をやってきて気づいたことをまとめてみました。(2019.10/4.)
まず、立川さんのこちらの文章を読みましょう。
重複する部分もありますが、ここではもうちょっと細かい(どちらかと言うと愚痴や小言のような)注意点についてコメントを並べてみたいと思います。
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スペルチェックと文法チェックをしましょう。かなりの部分は Grammarly などのソフトで自動チェックできます。
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英語に関しては、
Hyper Collocationというサイトも便利です。特定の言い回しが arXiv の他の論文で使われているかどうかも調べられます。多くの人が間違って使っている言い回しがヒットすることもあるかもしれませんが、arXiv で一度も使われたことのないフレーズを使うより(多くの場合)マシかと思います。
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提出前に、よく寝たスッキリした頭で、何回か読み返して下さい。出来れば arXiv に投稿するくらいのつもりで読み返してほしいです。(実際に博士論文を arXiv に投稿する人もいますよね。)明らかなタイポとか、「これについては Section XX で述べる。」と書いているのに Section XX 自体が存在しなかったりとか、一度でも読み返せばすぐに気付きそうなところは残さないようにしましょう。
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(あと、ここに書いても仕方ないかもしれませんが、指導教員の皆さんにも自分の学生さんの博士論文を通し読みして欲しいです。)
以下、主に理論系の論文について。
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これは滅多にないと思うのですが、、、。例えば「式これこれと式どれそれから次の式が導かれる」と書いてあるとします。で、審査当日に導出を聞いたら「そこは先行研究の論文にそう書いてあったのですが実は自分は導出は分かっていません」とか「そこは共著者が書いた部分なので自分は分かりません」とかいうのは、アウトだと思います。(前に自分で導いたのだが忘れてしまった、すぐに答えられないがちょっと調べれば分かる、とかいうのは良くあることですし、許容範囲と思います。)レビューパートで背景となる研究の式や論理を全て追うのは難しいかもしれませんが、どうしても理解出来ていないなら、潔く「これこれの文献でこういう結果が得られている」などとした方がマシだと思います。(それでも、文脈によっては紛糾する事もあるかもしれませんが。)
博士論文中で自分で理解して導出したかのような書き方をしておいて、実は本人がまるで分かってない、というのはダメだと思います。
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これは多少好みが別れるかもしれませんが、博士論文内での論理的なつながりを明確にするために、相互引用を活用して欲しいです。
例えば「この式 (xxx) の導出については App.XX で示す。」<==>「この App.XX では Sec.YY で用いた式 (xxx) についての導出を示す。」とか、「ここでの一般的な議論の具体例は Sec.XXX で示す。」<==>「この section では Sec.YYY で行なった一般的な議論の具体例を示す。」とか、「ここで、Sec.BB の式(xx)と式(yy)を用いると以下の式が示せる。」とかいった感じです。。。書いている本人にとっては自明でも、長い博士論文を読んでいると、どの場所とどの場所が論理的につながっているか混乱することが多々あります。審査委員はそんなに頭が良くないです。ちょっとしつこいくらいでもいいので、相互引用を積極的に活用してもらった方が読みやすいです。また、こうやって論理的なつながりを明確にしておくと、定義していない物理量が突然出てきたり、後で示す式を断らずに使ってしまっていたり、というようなミスが防げるという利点もあります。
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notation の統一。
特に2つ以上の論文を統合して博士論文を書く場合に多発するパターンですが、
同じ文脈での同じ物理量なのに章によって違う文字で表されていたり、逆に同じ文字が章によって全然違う意味を持っていたりするのは、出来るだけ避けて欲しいです。
最後に。主査だけでなく副査の教員にもあらかじめ提出日と提出方法を確認しましょう。僕は自分の博士論文の提出のときに副査の教員にアポを取らず、副査の1人に数日遅れて渡しに行ったら「締切を過ぎているので受け取れません」と言われて顔面蒼白になった記憶があります。その後何とか事なきを得ましたが。
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