研究内容

You can find the English version of my research interest here.

本研究室では、素粒子物理学、なかでも特に標準理論を超えた素粒子理論の構築とそれを用いた宇宙の進化の理解とを目的として、研究を行っています。標準理論を超えた素粒子理論や初期宇宙論に関連する全般が研究対象となっています。特に主要な研究内容としては、
  • 素粒子模型の構築とその実験的検証方法の探求
  • 素粒子現象を記述する場の理論の理解
  • 宇宙進化のシナリオの構築
などがあげられます。

素粒子標準理論は、これまで行われてきたテラスケールまでの高エネルギー実験の結果をほとんど正しく説明することができます。しかしこれは、我々が究極の理論を手に入れたということではありません。むしろ、多くの素粒子物理学研究者は、さらに高いエネルギースケールにはきっと標準理論には含まれない未知の粒子が存在すると考えています。これは根拠の無い期待ではなく、むしろ標準理論に内在する「不自然さ」を解消するためにどうしても必要なことなのです。

宇宙の進化を理解する上でも多くの謎が残されています。例えば宇宙暗黒物質の起源、宇宙に反物質がほとんど存在しない理由、さらには宇宙初期に起きたと考えられるインフレーションのメカニズムなどについて、素粒子標準模型の枠内での説明は不可能です。これらの謎を解明し、正しい宇宙模型を構築するためにも、標準理論を超える物理は不可欠です。

標準理論に内在する様々な問題を解決し得る素粒子模型として特に興味を持っているのは、「超対称模型」と呼ばれる模型です。超対称模型にはボソン(スピンが整数の粒子)とフェルミオン(スピンが半奇数の粒子)がペアとなって現れるため、この模型は超対称粒子と呼ばれる新しい粒子の存在を予言します。超対称性を持つ理論の構造を理解すると共に、超対称粒子が自然界でどのような役割を果たしているのかを明らかにするため、本研究室では精力的に研究を進めています。

一方、超対称模型以外にも、標準理論を超えた素粒子模型の可能性は様々考えられます。標準理論を超える物理に関して新たな可能性を探り、その検証方法を探求することは、これからますます重要となるでしょう。それと併せて、新たな素粒子模型に基づく宇宙進化のシナリオについてもさらに理解を深めたいと考えています。

現象論的観点から標準理論を超える新たな物理が必要とされる理由のひとつとして、暗黒物質の存在が挙げられます。様々な宇宙観測から暗黒物質が宇宙に存在することは確定的と言えますが、その素粒子論的性質はほぼ理解できていません。素粒子標準模型の粒子の中には暗黒物質となり得る粒子は存在しません。暗黒物質を素粒子論的な観点から理解しようとするとき、素粒子標準模型の拡張は不可欠です。本研究室では、暗黒物質を含むような素粒子模型としてどのような可能性があるかを探求するとともに、暗黒物質探査の新たな実験・観測的手法についても研究を行っています。

ヨーロッパの陽子型加速器(LHC)は素粒子標準模型を超える物理のシグナルを発見すべく本格的に稼働を開始し、現在多くの成果を出しつつあります。また、B-中間子やニュートリノといった粒子のCP・フレーバーの破れに関する実験、暗黒物質の直接及び間接検証実験、PLANCK実験をはじめとする宇宙背景放射の偏光揺らぎの観測、高エネルギー宇宙線の観測といった、LHC以外の実験や観測も数多く進められています。様々な素粒子実験や宇宙観測を視野に入れた理論的研究は、高いエネルギースケールの物理や初期宇宙の様相を明らかにする上で今まで以上に重要となると考えられ、今後一層力を入れていく研究テーマのひとつとなるでしょう。