最近の主要な研究とその解説
無限次元量子群によるゲージ・ストリング理論の双対性の研究
ストリング理論のコンパクト化として現れるカラビ・ヤウ空間、ゲージ理論に付随して現れるSeiberg-Witten曲線などストリング・ゲージ理論には有る種の量子幾何学が現れ、双対性と深い関連があることが知られている。最近、量子トロイダル代数という大きな対称性が数学者により発見され、AGT対応などを経由して双対性との関連が明らかになりつつ有る。ここ数年最も興味を持って研究している話題。
- "Holomorphic field realization of SHc and quantum geometry of quiver gauge theories", J.E.Bourgine, Y. Matsuo and H. Zhang, JHEP 1604 (2016) 167 INSPIRE
SHcとはVirasoro代数(2次元共形変換のなす群)やW代数を一般化した量子群である。この論文ではこの代数の表現論を用いて超対称ゲージ理論のインスタントン分配関数が計算できることを示した。また、超対称ゲージ理論に関連するSeiberg-Witten曲線の量子版であるqq-characterもこの代数の表現から導けることを示した。
- "(p,q)-webs of DIM representations, 5d N=1 instanton partition functions and qq-characters", J.E.Bourgine, M. Fukuda, K. Harada, Y. Matsuo and R.D. Zhu, JHEP 1711 (2017) 034 INSPIRE
上記の論文を5次元超対称ゲージ理論に拡張しストリング理論のブレーン・ウェブと関連させた論文。対称性はSHcを更に量子変形した量子トロイダルl代数に持ち上げられる。この代数はSL(2,Z)対称性を持っているが、それがストリング理論の双対性と直接対応すると信じられている。
Higher symmetry/Higher geometryを用いたM理論の研究
M理論はストリング理論の双対性を明白な形で取り込むことを目標にしたストリング理論の進化形である。ただ、その分、定式化に困難が有る。Lie代数の一般化であるLie 3代数、ベクトルバンドルの一般化であるnonabelian gerbeなどのhigher symmetry/geometryをM理論に適用する研究を行った。
- "M2 to D2 revisited" P.-M. Ho, Y. Matsuo and Y. Imamura, JHEP 0807 (2008) 003 INSPIRE
M2-braneの定式化は長い間よくわかっていなかったが2007年にBagger-Lambert-Gustavsson(BLG)により発見されたLie代数の拡張であるLie 3-代数をゲージ対称性とする理論が見つかり、有力な記述法として注目を集めた。この論文では任意のLie代数に対してLie 3-代数を与える一般的な手法を与えて、BLG模型を拡張した。特に一般化されたHiggs機構を適用するとストリング理論のD2ブレーンに帰着することを示した。
- "M5 from M2", P.-M. Ho and Y. Matsuo, JHEP 0806 (2008) 105 INSPIRE
特に無限次元Lie代数に対するLie 3代数として、南部が1970年代に提案したいわゆる南部括弧式を用いると上記の理論がM2ブレーンが無限個集まった形でM理論の5次元のブレーンを記述することを示した。
- "A Non-Abelian Self-Dual Gauge Theory in 5+1 Dimensions", P. M. Ho, K.-W. Hwang and Y. Matsuo, JHEP 1107 (2011) 021 INSPIRE, M5ブレーンの幾何学としてNonabelian gerbeを用いてM5ブレーンのラグランジアンを議論した。Gerbeが出現する理由は2回反対称テンソルに由来するもの。自己双対場に対する作用についてもある種の提言を行った。
String Field Theory
ストリング理論の第二量子化(弦の生成消滅)を記述する定式化のことを弦の場の理論と呼ぶ。
- "Boundary states as exact solutions of (vacuum) closed string field theory", I. Kishimoto, Y. Matsuo, E. Watanabe, Phys.Rev. D68 (2003) 126006 INSPIRE
Dブレーンを記述する境界状態は簡単な代数方程式|B>*|B>=|B>を満たすことを示し、それを有る種の簡単化された閉弦場の理論の方程式の解として解釈する試みを行った。
- "Computing in string field theory using the Moyal star product", I. Bars and Y. Matsuo, Phys.Rev. D66 (2002) 066003 INSPIRE 開弦場の理論を無限次元非可換空間(Moyal空間)上の場の理論として書き換えた。その際、無限次元であることから奇妙な現象が起きて、結合則の破れが一部現れることを示した。結合則の破れは閉弦によるものだが、開弦の理論のみから出発すると無限次元の取り扱いの難しさのため制御が難しい。